お侍様 小劇場
 extra 〜寵猫抄より

    “おいし・おいしvv”



一月も半ばを過ぎれば、
さすがにもう“お正月”という空気も去って。
世間様は、
本格的な冬将軍の到来やセンター試験の開始、
札幌雪祭りの準備など、
この時期ならではな話題を取り沙汰している。
そんな紙面を、レンズの小さい眼鏡越しに眺めておれば、

 「勘兵衛様、ヘイさんがお昼過ぎにおいでだそうですよ?」
 「さようか。あい判った。」

リビングの陽だまり、
ソファー…ならぬコタツの定位置に座していた御主へと、
伸びやかなお声が掛かり。
新聞へと視線を落としていた壮年殿がお顔を上げると、
暖かそうな若草色のモヘアのセーターにそれはよくマッチした、
光を結実させたような、それは嫋やかな姿態の美形が、
癖のない金絲の髪をうなじですっきりとまとめ、
色白の端正な細おもてでにっこりと微笑っておいで。
愛想がいいのは今に始まったそれではないが、
御主とは“単なる主従関係”という間柄なのだと、
ずっとずっとの長いこと、自身へ言い聞かせていたらしき、
その戒め…というか、思い込みが消えてからこちら。
付き合いは長いはずだのに、
そこからあらためて始まったかのような、
初々しくも甘やかな意識が添加されたらしくって。

 「………何ですよぉ。///////」

優しい顔立ちへ ついつい見とれてしまい、
どこか和んだ眼差しをじいと向け続けておれば。
以前だったなら、
目鼻以外にも何か付いておりますか?なんて
さらり言って手際よくいなしていたはずが。
じわりと含羞みの気色が頬へと浮かび、
口許をうにうにとたわめてしまうから、
何とも初心なことよと、そこも可愛い女房殿で。
自分からは視線が外せぬか、
もじもじと居心地悪そうにしておれば、

 「にゃんvv」
 「あ、そうそう。ご飯でしたね。」

その壮年殿のお膝からのお声が上がって、
それに弾かれ、はっと我に返る敏腕秘書殿。
白い双手を、胸の前、お顔近くではたりと合わせ、
いけないけないとキッチンへ回れ右。
優しい姿が去るのをやや残念そうに見送ってから、

 「…久蔵、クロ。」

せっかくの甘い刹那を蹴散らしおってと、
壮年の作家せんせえが自分のお膝を見下ろせば。
小さな毛玉が約二つ、
何ぁに?と ウルウルした無垢な眼差しで見上げ返して来るばかり。
コタツ布団へと足を入れた勘兵衛の、
そのお膝という高さや堅さがちょうどいい加減であるものか。
彼がこうして定位置へ座せば、
小さな家人らが、
何処に居ようと いつの間にか寄って来るのもいつものことであり。
まずはキャラメル色の毛並みした、メインクーンの仔猫が、
たたた…っと小さな総身を弾ませて掛けよって来。
脇から腕の下をくぐり抜け、よいちょとお膝に陣取れば、
続いてどこからか、こちらさんは黒い毛並みの、
より小さな仔猫が擦り寄って来ていて、
よいちょとよじ登って来るのがワンセットとなりつつあり。

 「にゃ?」
 「みゃうvv」

どちらも大人の手の上へやすやすと乗っかれる大きさなれど。
そのまま丸くなってお膝に落ち着いた黒猫さんの方はともかく、
後足で立ち上がり、小さなその身を伸ばして、
勘兵衛の胸元を上へ上へと登ろうとしているメインクーンさんの方は、

 「これ、落ちるなよ?」

勘兵衛には小さな幼児、男の子の姿に見えるものだから。
狭い膝の上、コロンと転げたら
そのまま天板の端で頭をぶつけて怪我でもせぬかと、
重さはそうでもないながら、つい気になってしまうのも致し方なく。

 「これ、クロを踏むでないぞ。」
 「みゃっvv」

一丁前にも上の空な生返事をし、
こっちが大事と勘兵衛登攀を続けるおちびさん。
柔らかな小さな手といい、
こちらの身へ足まで掛けて、
えいしょ・よいちょとよじ登って来る やんちゃぶりといい。
子供は苦手だったはずなのに、
ついのこととて、口許がほころんでいる自分へこそ
苦笑が絶えぬ勘兵衛だったりし。
ましてや、

 “もう一方の顔も知っておるのだがの。”

微塵も表情を載せぬ、玲瓏な細おもて。
やはり金髪に色白という繊細な作りの風貌をしていながら、
冴えた双眸に宿るは、
研ぎ澄まされた刃のような冷やかな光。
どんな大妖でも仕留める凄腕の狩人たる、
凛々しくも素っ気ない青年の、
風貌や性分の方も知っているというに、

 「みゃっ。」
 「おお、登り切ったか。」

小さなかかとを えいやっと持ち上げ、
こちらの肩の上へまで小さな足を掛けんとするの、
苦笑をしもって見守るばかり。
ともすりゃあ“好々爺”のような感慨もて、
接してしまうところは、以前と少しも変わらずであり。

 「あ。これ、いけません、久蔵。」

ご飯ですよと改めて呼びに来た七郎次が、
坊やの勘兵衛への無体へ おおうと眸を丸くし、
こっちへおいでなさいと両手を広げて見せるのへ、

 「………vv」
 「な、なんですよぉ。そんなお顔なさって。///////」

尚のこと目許を細めての破顔しておいでな御主様だったのへ、
ややや、何か笑われるようなことをしたかしらんと、
戸惑い半分、鼻白んでしまうところもまた、
初々しいたらありゃしない。
敏腕だけれど、唯一 勘兵衛へだけは素直朴訥な伴侶殿。
やれ、眼福が戻って来たぞと、
含羞むばかりの立ち姿を眺めておれば、

 「みゃうにぃ?」
 「あ、うんうん。今日はイチゴもあるからね?」

いつの間にそっちへ行ったか、
クロが足元からのお声を掛けていて。
真下から見上げて来る姿の愛らしさへ、
あっさりと陥落されてだろ、
きゃ〜〜んんっvvとその場へしゃがみ込んでしまった、
切り替えの早い七郎次へ。

 “…………おいおい。”

これも若返ると言っていいものか。
前足そろえて ちょこりとお行儀よく座ってた黒猫さんを、
相好崩して可愛い可愛いと間近に眺めやる、
ともすりゃあ今時の女子高生以上に無邪気な連れ合いさんなのへ。
やれやれとも見えそうな、
ちょっぴり苦めの微笑を浮かべた島谷せんせえだったそうな。


  「さあさ、ご飯にしましょうね。」
  「みゃうvv」
  「勘兵衛様も ほら。」
  「ああ。
   そういえば、イチゴがどうのと言っていたが。」
  「ええ、それがね、勘兵衛様。
   頼母さんのところで作っておいでなの、送ってくださって。」
  「おや。」
  「みゃいみゅうvv」
  「そうだねぇ。久蔵も大好きだよねぇ。」
  「なぁんvv」
  「クロちゃんも
   エバミルクかかったところが気に入ってくれてvv」


  早くも春めきを思わす話題を取り沙汰しつつ、
  さあさ、ほかほかご飯を召し上がれvv

   〜Fine〜  2012.01.19.


  *相変わらずどころか、
   もしかして以前以上に
   “惚れてまうvv”度が上がってるおっ母様です。
   そして、クロちゃんがさりげなく、
   意地悪な壮年殿から
   庇ってみたり、リード取ってみてたりして。
(笑)

  *ちょっと話がずれますが、
   童謡や子供向けのお歌が流れて来ると、
   ついついしっかと歌詞を口ずさんでいる人を見かけたら、
   お家に小さいお子さんがいます、間違いない。(古)
   いえね、わたしは音痴だという自覚もあってのこと、
   ハミングくらいならともかく、ちゃんと歌詞を、
   それも散歩中とか屋外とかで
   声出してなんて歌えないなぁって思ってたんですよ。
   (カラオケなんて もってのほか…)
   お母さんになってもそういうところは変わるもんじゃなかろうって。
   それが今じゃあ、小姫ちゃんが傍にいないときでも、
   おかあさんといっしょや、いないいないばぁのお歌が聞こえると
   ついついとはいえ歌ってますからねぇ。
   七郎次さんもきっと、
   久蔵ちゃんやクロちゃん相手に、
   鬼ぃ〜のパンツは いいパンツ〜♪とか歌ってるんですよ。
(笑)


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